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京都地方裁判所 昭和55年(ワ)303号 判決 1981年3月17日

原告 杉崎良雄

右訴訟代理人弁護士 山内丹

被告 国

右代表者法務大臣 奥野誠亮

右指定代理人 小澤一郎

<ほか三名>

主文

一  被告は原告に対し、金三五五万八、〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年三月四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文同旨

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五一年九月一三日、訴外京都電機株式会社(以下、京都電機という)を被告として、京都地方裁判所に退職金支払請求訴訟(同庁昭和五一年(ワ)第一、一一八号)を提起し、右訴訟手続において、昭和五二年一〇月一二日、京都電機との間に、別紙和解条項のとおりの和解(以下、本件和解という)が成立した。

2  原告は、京都電機を債務者とし、退職金請求権を被保全権利として、京都地方裁判所に有体動産仮差押の申立をし、仮差押決定(同庁昭和五一年(ヨ)第八六六号事件)を得、同庁園部支部執行官にその執行の申立をしたところ、同支部執行官甲野太郎は、右仮差押決定正本に基づき、昭和五一年一一月一二日、京都電機所有の別紙第一物件目録記載の動産(以下、第一物件という)につき仮差押の執行をなした(同執行官昭和五一年(執ハ)第一一号事件、以下、本件仮差押執行事件という)。

3  京都電機は原告に対し、本件和解条項に基づき、昭和五三年六月八日までに金九〇万円を支払ったが、残額金三七〇万円につき、その後の支払をしなかった。

4  原告は、京都電機に対する右金三七〇万円の債権につき、本件和解調書を債務名義として、京都地方裁判所園部支部執行官に本件仮差押にかかる第一物件に対する差押本執行の申立をし、同支部執行官乙山春夫は、昭和五四年五月九日、右執行に着手したが、第一物件は全部存在せず、これに対する執行は不能となったため、新らたに別紙第二物件目録記載の動産(以下、第二物件という)を差押えた。

第二物件は、昭和五四年一二月五日、競売に付されたが、これにより原告の取得した売得金は金一四万二、〇〇〇円であった。

5  責任原因

(一) 京都電機を債務者として、昭和五二年一月五日、京都地方裁判所において、和議認可決定(同庁昭和五一年(コ)第八号和議事件)が確定し、和議裁判所から同庁執行官に対し、保全処分事件(同庁昭和五一年(モ)第八四七号、同第八六一号)終了通知がなされた。

(二) 右通知を受けた同庁執行官は、昭和五二年一月二五日ころ、原告の京都電機に対する本件仮差押執行事件(昭和五一年(執ハ)第一一号事件)につき、京都電機に対し、仮差押執行解除通知(以下、本件解除通知という)をした。

(三) しかし、原告の京都電機に対する本件仮差押の被保全権利は、退職金請求債権であるから、一般の先取特権を有する債権(商法二九五条一項)であり、従って、和議債権とはならない(和議法四二条)。しかるに、右執行官は、原告の右債権を和議債権と誤信した過失により、本件解除通知をなしたものである。

(四) そのため、京都電機は、第一物件を任意処分した。

6  損害

第一物件は、原告の京都電機に対する本件和解に基づく債権額金三七〇万円を満足させる十分な価値を有していたが、これに対する強制執行は不能となり、京都電機は既に倒産して他に差押える物件は皆無である。従って、原告は、第二物件の競売による売得金との差額金三五五万八、〇〇〇円の損害を被った。

7  よって、原告は被告に対し、執行官の不法行為による損害金三五五万八、〇〇〇円及びこれに対する右不法行為後の本訴状送達の日の翌日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  同3の事実は不知

3  同4の事実は認める。

4  同5の(一)、(二)の各事実は認める。同5の(四)の事実は不知

5  同6の事実は不知

三  抗弁(過失相殺)

原告は、本件解除通知のあった当時、本件解除通知のあった事実を知っていたのであるから、本件第一物件が京都電機によって処分されることを十分察知しえたものであり、再度仮差押を申請するなどして右処分を防ぐことも十分可能であったのに、漫然とこれを放置し、二年余を経た昭和五四年五月に至って初めて点検執行を求めている。原告が再度の仮差押の申請等をしなかったのは原告の過失であり、損害の算定に当り考慮されなければならない。

四  抗弁に対する認否

原告が本件解除通知のあった当時、右事実を知っていたこと及び原告が昭和五四年五月に至って初めて点検執行を求めたことは認めるが、これらをもって原告に過失があるということはできない。

京都電機は、原告に対し、本件和解に基づき、昭和五三年六月まで分割金の支払をしており、その後も原告と支払につき、種々交渉を重ねていた。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1、2の各事実は、当事者間に争いがない、

二  請求原因3の事実については、《証拠省略》によると、京都電機は原告に対し、本件和解条項に基づき、昭和五三年一〇月ころまでに合計金九〇万円の支払をしたが、残額金三七〇万円についてはその後支払をしていないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  請求原因4の事実は、当事者間に争いがない。

四  責任原因(請求原因5)

1  請求原因5の(一)、(二)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  請求原因5の(三)のうち、原告の京都電機に対する本件仮差押の被保全権利が退職金請求債権であることは、前認定の請求原因2の事実のとおりであるから、右債権は一般の先取特権を有する債権(商法二九五条)であって、和議債権とならず(和議法四二条)、本件仮差押が和議手続においても効力を失わないことは明らかである。

《証拠省略》によると、本件仮差押執行(昭和五一年(執ハ)第一一号事件)に際し、担当執行官甲野太郎は、債権者(原告)の承諾を得て、差押物たる第一物件の保管者を債務者としたこと、右執行官補助事務員は、昭和五二年一月一四日、京都電機に対する和議認可決定に伴なう和議前の保全処分終了通知書を受領したが、原告の京都電機に対する本件仮差押執行事件(昭和五一年(執ハ)第一一号事件)が前示のとおり、和議認可決定によっても失効しないものであるにもかかわらず、これを看過し、これが失効終了するものと誤解し、第一物件が債務者保管となっていたところから、同年一月二五日付文書で債務者(京都電機)に対し、本件解除通知を発したこと、また、同日付文書で債権者(原告)に対し、事件完結通知を発したところ、債権者(原告)の当時の代理人から、右執行官宛に同年一月二八日付文書(翌二九日到達)をもって、本件仮差押執行は和議認可の拘束を受けず、失効しないのではないかとの照会があったこと、そこで、右補助事務員は、幹事長執行官の指示を仰ぎ、当事者双方宛に、同年同月三一日付「事務連絡」と題する文書を発し、本件仮差押執行事件(昭和五一年(執ハ)第一一号事件)は未だ終局せず、本件解除通知は誤りであるから債務者は仮差押物件を処分してはならない旨連絡したこと及び事務分配の規定上、右補助事務員の本件解除通知等の行為は、担当執行官の指示による事実行為であることが認められ、右認定に反する証拠はない。従って、本件解除通知の主体は担当執行官というべく、右執行官が保管義務を負う第一物件につき本件解除通知を発した点には、右義務違反の違法があり、その職務を行使するにつき過失があったものと認められる。

3  請求原因5の(四)について

本件仮差押執行(債務者保管であったことは前示のとおり)が行なわれたことにより、特別な事情がない限り、第一物件については、債務者保管の状態で担当執行官の占有が継続するものと推定すべきところ、本執行移行時に第一物件が存在しなかったことは前認定(請求原因4)のとおりであり、《証拠省略》によると、原告は、昭和五〇年一二月ころ、京都電機を退職したが、退職時、同社の名古屋支店長の地位にあったこと、原告は本件仮差押執行後、同社内の元部下らから、第一物件が社外に運び出されているとの噂を聞知し、同社の池田総務部長に電話照会をしたところ、同人から、第一物件については裁判所から解放されたので処分した旨の回答を得たこと、そこで、原告は当時の自己の代理人に右の旨を連絡したところ、右代理人からも本件解除通知があったので早速抗議の連絡はしておいた旨聞かされたこと、担当執行官ないしその補助事務員においては、前示のとおり、債務者(京都電機)に対し、本件解除通知が誤りである等の旨の文書を発したほかは、債務者(京都電機)代理人宛に同様の電話連絡をし、右代理人から京都電機に連絡しておくとの回答を得たのみで、現実に同社に赴いてその保管状況を確認するなどの方途を講じていないことが認められる。以上の事実を総合すると、第一物件は、本件解除通知の直後に、京都電機によって任意処分されたことが推認される。

《証拠省略》中には、前記池田総務部長に確認した時期に関して、和解の前であったとか、和議の前であったとか供述にやゝ混乱した点が窺われるが、供述全体の趣旨からみて、和解の前と述べているものと解される。

また、右認定に反する供述記載のある《証拠省略》が存在するが、右の存在によっても以上の認定を左右しえず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はなく、担当執行官の第一物件に対する占有継続の事実を遮断すべき特別事情としては、本件解除通知が存するのみである。

五  損害

《証拠省略》によると、本件仮差押執行には、京都電機亀岡工場第一生産課長のほか、グリラーの専門家である原告自身も立会し、京都電機の製品である第一物件を差押えたこと、担当執行官は、第一物件の評価額を合計金五〇〇万円としたが、右評価に当っては、原告らの意見を聞いていること、京都電機作成の価格表によっても、第一物件の標準価格合計額は、金五〇〇万円を超えるものであったこと及び本件仮差押が本執行に移行した時点では既に京都電機には第二物件以外にみるべき資産のなかったことが認められ、以上の事実によれば、第一物件が本執行移行時に存在すれば、原告の京都電機に対する債権金三七〇万円は十分弁済を受けえたものと認められる。

なお、第二物件は、第一物件と類似の製品を含んでいながら、その競売価格は合計金一四万二、〇〇〇円と低額であったが、原告本人尋問の結果によると、第二物件は、いずれも部品が不足していたり、欠陥があったために右のような低額の競売価格になったものであることが認められるので、第二物件の競売価格が低額であることをもって、以上の認定を左右しえず、また、《証拠省略》の存在によっても以上の認定を覆えすには足りない。

してみれば、原告は、第一物件が存在しなかったため、京都電機に対する債権額金三七〇万円から第二物件の競売による売得金一四万二、〇〇〇円を差引いた差額金三五五万八、〇〇〇円の損害を被ったというべきである。

六  抗弁(過失相殺)について

抗弁事実のうち、原告が本件解除通知のあった当時、その事実を知っていたこと及び原告は、昭和五四年五月に至り初めて点検執行を求めたことは当事者間に争いがない。

ところで、被告は、原告が本件解除通知のあった昭和五二年一月から右点検執行申立の昭和五四年五月までの二年余の間、再度の仮差押の申立等をなさず、何らの手段を講じなかったのは、原告の過失である旨主張するが、前記四の2で認定したとおり、原告としては、本件解除通知が発せられた後、担当執行官に対し、これが誤りである旨の指摘をなしたのであり、第一物件に対する保管責任が担当執行官にあって、右のような特殊の事情が判明した以上、担当執行官は申立を待つまでもなく、点検をなすなど善良な管理者としての注意義務を負っていることに鑑みると、原告に対し、本件解除通知が誤りであることの指摘をする以上に進んで再度の仮差押の申立等をなす義務を要求するのは相当でないといわなければならない。

従って、本件損害の発生につき、原告に過失を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

七  以上の次第であるから、被告は原告に対し、国家賠償法一条により、本件担当執行官の職務上の過失により原告の被った損害金三五五万八、〇〇〇円及びこれに対する右不法行為後の本訴状送達の日の翌日(本件記録によると昭和五五年三月四日であることは明らかである)以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

八  よって、本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用し、仮執行宣言の申立については、相当でないから、これを却下し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小野博道)

<以下省略>

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